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へびっぽい地名 平口・片木・辺木・蛇田

長崎地名的散歩
04 /19 2023

 地名をいろいろ見ていると、へびっぽい地名や、へびに関すると言われる地名、そして、ズバリ「蛇」のつく地名があることがわかる。


 近年、日本中で自然災害が続いたことから、「災害地名」がテレビで報道されるようになった。「蛇崩(じゃくずれ)」や「蛇落(じゃらく)」など「蛇」のつく地名は、「大水による災害が発生しやすい所」と言う認識が広まっている。

 蛇は、そのくねくねした動きから、流れる水を象徴する生きものとされ、水の神は洋の東西を問わず、多くが蛇身で描かれる。


 ただ、へび地名がすべて災害地名という訳ではない。

 再来年の2025年はちょうど巳年なので、 今回は、長崎の「へびっぽい地名」について見てみよう。(何がちょうどだ)



 長崎市茂木町の中心部から、旧茂木街道のゆるやかな上り坂を田上方面へ進むと、谷の奥で傾斜がきつくなり、つづら折りの峠道に差しかかる。

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 その辺りは平口(ひらくち)と言う所で、川平川が流れ、平口橋が架かっている。

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 そして、頭上高く、長崎自動車道につながる県道51号線の高架橋が横切っている。

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 以前、長崎のローカルTV番組で、長崎の古写真と現在の様子を比較するコーナーがあり、経済学者の姫野先生が、平口の地名由来を紹介されていた。「昔ここは毒蛇のマムシが多く、長崎ではマムシをヒラクチと言う事から、平口という地名がつけられた」という話だった。


 しかし、それは恐らく地元民の想像によるもので、「傾斜地・崖地の登り口」というのが妥当なところだと思う。

 ヒラは古い言葉で、主に「急傾斜地」を指す。山の登り口を山口と言い、坂の登り口は坂口なので、平口は「急傾斜地の登り口」となる。

 類例は少ないが、全国の平口を見ても、やはり同様の地形のようだ。

 ・浜松市浜北区平口

 ・松江市東忌部町平口


 ただ、崖の下というのは、地形的に地下水が出やすく湿っており、水生生物が棲んでいる。そしてそれをごはんにするヘビもいるはず。川のそばなら尚更のこと。

 昔の川や石垣は隙間が多く、蛇がスルスルと逃げ込んでいくのをよく見かけた。


 ここでマムシを一匹見ようものなら、「ホラホラ!ヒラクチのおるけん、ヒラクチばい!ホラホラ!ね?ね?」と、口をとんがらせて目をギョロギョロさせ、必死に同意を求めるヤツもいただろう。平口の「マムシいっぱい説」は、長崎弁による誤解に違いない。



 五家原岳の中腹にある「片木(へぎ)」集落も、郷土史関係の本には「マムシが多い」のが由来と書いてあった。畑に水を引く川がそばにあるので、へびくらいはいただろうが、これも言いがかりに違いない。

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 ヘギは「ヘグ(剥ぐ)」を名詞化した地名であり、傾斜地の表面が地すべり等ではがれる所という事だろう。

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     googleマップより

  

 実際、畑が崩れたようなところもあるし、この辺りでは、道路があちこち小崩落しているのをたびたび見かける。

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 雲仙市南串山町にも「辺木(ヘギ)」地区がある。山の上の傾斜地に田畑が広がる土地で、やはり畔や石垣の小崩落が見られる。へびに関する話があるかどうかはわからなかった。

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 傾斜が急で、土がサラサラした所は、舗装や石垣などで固めないと、最後はただの斜面になってしまうのかもしれない。

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 全国にある辺木も、見た限り傾斜地ばかりだった。



 南島原市有家町の蛇田(ひらくちだ)は、わざわざ「蛇」の字をヒラクチと読ませているので、恐ろしさはバツグン!

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 普通、人が住むところの地名に「蛇」という字はあまり使わないものだが、ここは地図にも載っている。


 ただ、全国的に見ると、宮城県石巻市の蛇田(へびた)などは、街なかの行政地名として存在しており、蛇田駅や蛇田小学校もある。元々は川の中洲の氾濫原だったと思われる。


 日本では古来から蛇を神聖視して信仰対象とした地域も多い。それは遥か縄文時代から受け継がれたものと言われている。蛇に対する感じ方も様々なのだろう。


 有家町の海岸部から尾根道を登り、蛇田(ひらくちだ)集落に入るあたりから、坂の傾斜は急になる。しかし、集落を過ぎるとまたなだらかになる。周辺は登ったり下ったりの複雑な地形で、崖も多い。

 つまりここは、地形的には「急傾斜地の入り口」ではない。

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     Googleマップより


 では、本当にへびが多いのだろうか?いや、それはない。地名にはちゃんとそれなりの意味があるはずだ。


 私は集落の周りを、たくさんのへびが出てこないかとビクビクしながら見て回った。

 集落の西側には大きな溜め池があり、昭和22年の航空写真にも写っている。

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 東側の落ち窪んでいる所は、広い湿地になっている。

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 その先にも大きな溜め池があり、隣の集落にもひとつ、合計3つの溜め池が並んでいる。


 溜め池が昔からあったかは判らないが、少なくとも水の湧出があり、水が溜まりやすい地形のはず。水が多ければへびも多そうだが、ここも地形状況の地名で説明できる。


・ヒラは急傾斜地。これは、集落の尾根の周囲に崖があるから。溜め池が人工のものだとすると、そこも崖だった事になる。


・クチは入口ではなく、この場合は湿地を表す「クチ(朽ち)」だと思う。


・ダは処(ド)で、「場所」を示す。


 元々、島原半島の南側は溜め池が少なく、旱ばつになると田畑がすぐに枯れていたらしい。それが島原の乱の一因とも言われている。

 この地を開墾した御先祖たちは、貴重な水源を新参者に取られまいと、わざと怖そうな「蛇田(ひ~ら~く~ち~だ~)」という地名で通したということは考えられないか。(いや、そんな言い方はせん)


 他にも由来の候補がある。蛇田(ひらくちだ)は、長崎県の小字地名総覧によると、蛇田、上蛇田、東蛇田、蛇田原、蛇田尻、蛇田谷の6つの小地域に分かれており、半数は「ヒラクツダ」と発音されていたらしい。

 地名の「クツ」は崩れるのクヅの可能性がある。集落の周囲の崖が崩落していた可能性も考えるべきだろう。


 さらにもういっちょ。ヒラクチが元々は「ヘビ」だったと考えた場合、集落周辺の土地は、左右に大きくうねった上、登り下りも激しい。この地形状況を蛇に見立てたのではないかとも思える。

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     Googleマップより     


 全国の「蛇」のつく地名の土地は、やはり氾濫原や山の地すべり地と思われるところが多い。しかし、そうでもなさそうなところもある。語感が「へび」に似ているというだけで「へびが多いから」などという、しょうもない由来譚を語られるのも気の毒だ。


 郷土史などの地名や伝承は、未だに50年も100年も前の説をそのまま事実のように載せている事が多い。時代に合わせて内容を見直し、伝説は伝説として、近年の仮説も併記し、若い人達が考える機会を作るべきだろう。教育委員会とかも、昔の偉い先生に忖度するのが優先なのかと思ってしまう。


 ちょっとヘビーな話になったが、今回はここまでとしよう。じゃ(蛇)!



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令和5年の桜を見つつ、原チャリ調査隊は往く

日々の事
04 /04 2023
 自分は最近、原付(50cc)でけっこう遠くまで出かける。
 日曜日は、地名の調査で佐賀県嬉野市の山の中と、東彼杵郡波佐見町の山の中へ行ってきた。

 今どき制限速度が30Km/hでは、幹線道路を走ると下手っぴに当てられそうなので、なるだけ裏道を走る。大きい交差点では二段階右折とかいう、危険極まりない行為を強要させられるので、迂回ルートも詳しくなった。

 今回はまず、諫早から大村を通って北上するのだが、「おつまみガリ」を買うために、弥勒寺町のシュシュに寄る。ついでにおやつの酒まんじうも購入。賞味期限が当日限りの生産者直納品は、やはりスーパーの添加物入りのとは違ってウマシャース!シャース!シャース!(はいはいエコーね)

 丘の上から見る大村市街地。ちょっと春霞み。
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 ちょこちょこ寄り道して、昼ごはん。長崎自動車道の大村湾パーキングエリア下り線のレストランが、長崎ちゃんぽん専門店としてリニューアルしたと聞いていたので、原チャリで行ってみた。
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 原チャリで高速を走ると、すぐにお縄を頂戴する上、ネットニュースで世界中に配信されるので、一般道の裏口から入る。このサービス、貧乏人間にはとても助かる。
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 あらかじめネットで情報を確認して、よだれセンサーMaxだった、角煮ちゃんぽんを選択。
 あれぇ?角煮が写真と違って小さいぞお!写真ではふるふるに見えたが、けっこう硬いし。これは単なる厚めのチャーシューだ。100円アップの「野菜たっぷり」は多すぎるだろうと思って普通のにしたが、野菜は、食いかけかと思うほど少なかった。
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 まあ、ちゃんぽんはスープだからね!気を取り直してスープを一口飲んだ。
 塩辛かった‥。

 う~んこのちゃんぽんは、一般的にはものすごく美味いのかもしれないが、ちょっと自分の好みではなかったようだ。(はっきり言えよ)
 自分はもう老人なので、最近はどっちかと言うと、長崎のコッテリちゃんぽんより小浜ちゃんぽんの、あっさりだが魚貝エキスの旨味が効いたスープが好みになってきた。
 リンガーハットのちゃんぽんも、昔ほど美味いと感じないのは、自分が贅沢になったからかと思っていたが、どうやらパートさんがIH調理器具で焦げないように作っているからのようだ。
 昔は屈強なあんちゃんが、豚肉と野菜を重い中華鍋を振って強火で炒めていた。火がしっかり通るだけでなく、ちょっと焦げると、何か知らんけどゼッタイに美味くなるはずだ。

 ちゃんぽんの麺も、いろんなものがあって、何が正解という事はないが、ぷりぷりならいいというわけでもない。
 雲仙市瑞穂町の、あるレストランのちゃんぽんは、「あそこのは美味かったな」と記憶に残る美味さなのだが、麺が、ちゃんぽんを知らない土地の会社が想像で作ったものっぽいのが惜しい。しかし、中華街で買った麺を持っていって「これで作ってくれ」と言うわけにもいかない。

 ちょっと熱くなってしまったが、諫早にもちゃんと中華鍋を振って美味いちゃんぽんを出してくれる店がある。でも、どこかは絶対に教えねえ!

 飯を食って、山から国道に下り、東彼杵町へ。高速インターの交差点を過ぎて右へ曲がり、旧道を谷の奥の奥まで進む。
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 途中、道端に大きな鳥居だけ建っている。しかし、神社は見当たらない。
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 鳥居の中央、高速道路の高架橋の奥に、ちょっと見えているのが、虚空蔵山(こくぞうさん)の山頂。山には愛宕神社があり、これはその一の鳥居らしい。何度か移動して今の場所に落ち着いているそうだ。

 谷の奥に、三の瀬という所がある。バス停が、いかにも過疎地である事を物語っている。
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 次に行った時は倒壊しているかもしれない。

 古い峠道ほど、谷の奥まではゆるい坂で、そこから一気に急傾斜になる。その登り口に、以前SNSで話題になっていた「西九州新幹線のトンネルの山をてっぺんからコンクリートで固めた所」の側を通ってつづら折りの坂を上る。
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 自然はすごいが、人間もすごい。「これで大丈夫」と言い切れるのだから。トンネル口にはちゃんと「三の瀬」と地名が書いてあった。
 コンクリートは、この川瀬から施工されている。
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 この辺の桜はちょっと早く、もう葉桜。
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 なかなか新幹線が近くでバッチリ見える所は少ない。時刻表をみたら来そうだったので、遠くから狙って奇跡的に撮れた。ここで上下がすれ違う事は知らなかった。
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 峠に向かう途中の集落で、「共同便所」という昭和な案内板に心惹かれた。英語とハングルを併記しているが、観光客が来るような所とも思えなかった。あとで調べてみよう。
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 俵坂峠から、山の集落の調査へ。思ったより険しかったが、予想した地形とは違い、通行止めもあって途中で断念した。
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 波佐見町へ向かうため、山を降りる。国道に戻るのもなんかもったいない気がするので、岩屋川内ダムの方から嬉野へ抜ける。  
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 ダムから下を覗くと、相変わらず尻がモゾモゾする。
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嬉野市内、ガソリン安ぅい!半分だけでも入れとけばよかった。
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 一応、西九州新幹線の嬉野温泉駅も外観だけ見に行った。周囲はまだ工事中で、でっかい病院が駅の真ん前に建っていた。
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 県道1号線の低い峠を越え、波佐見町の目的地へ。途中、最近人気のPOPな波佐見焼などをあちこちで売っていた。遅くなるので今回は我慢した。

 高いところに行って山の稜線が続いていると、とりあえず写真を撮り、家に帰ってGoogleアースなどでどこの山なのか調べる。カネがかからずけっこう楽しめる。 
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 そして、スタイリッシュな小屋とか、どうでもいいものに、つい目が行く。
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 山の集落の観光、いや、調査を終え、あとは帰るだけ。
 波佐見町は、川沿いの土手に何キロも桜を植えていて壮観だ。
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 しばし散歩して、駆け足で過ぎてゆく春を楽しむ。

 おやつの酒まんじうが美味かったので、まだ残っていたら買おうと思い、再びシュシュへ。

 福重町の公民館の桜も、まだそれほど散っていなかった。
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 弥勒寺町には梨の花も咲いて、受粉作業が行われたとニュースで言っていた。
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 シュシュに行ってみたが、まんじうどころか、おはぎも桜餅も、何もかも売り切れ!

 帰りもまた、できるだけ裏道を通って諫早へ戻った。
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 春は往く サクラ咲いたら サヨウナラ
 また来年も会いに行こう。

Ramblingbird

長崎南部の自転車散歩やどうでもいい出来事を、小学生ギャグを交えて書き散らします。お下劣な表現を含みますのでご注意下さい。