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女の都(めのと) 長崎空中住宅地の先駆け

長崎地名的散歩
02 /20 2020
長崎の変わった地名と言えば、やはり、女の都(めのと)は定番だろう。

 最近ではテレビでもたびたび取り上げられて有名になって、もういちいち、
「オンナノミヤコじゃなかとですばい」と言うのも面倒くさいほどに。

いやぁしかし、私も子供の頃は、女の都行きのバスを見るとアマゾネス
ような半裸の女の人達が戦っているのだろうかと想像してドキドキしたものだ。
(↑そんなわけあるかい!)


 女の都団地は、平地が少ない長崎によくある山の上のニュータウン。
開発が始まったのは昭和40年代とけっこう早い。

menoto_now.jpg
 Googleマップより

 整然と一戸建てが並んでいるが、奥の通りは自動車がすれ違えない
細い道になっていて、ちょっと時代を感じさせる。でも、険しい地形の
部分にもギッシリ家が建ち並んでいるのは、便利で暮らしやすい町
だからだろう。

DSCF7518A.jpg


 「めのと」の地名由来でまず聞くのが、山里では定番の平家の落人が
隠れ住んだところ説。ここの場合は女官が多くいたので女の都になった
そうな。フームなるほどねぇ。

 もうひとつは、地形による説。全国的に、山などに囲まれた暖かい
南向きの斜面地を、ばあちゃんが赤子を抱っこする状態になぞらえて、
「姥の懐(うばのふところ)」と呼ぶのだが、同じウバでも「乳母(うば)」
を「めのと」とも読むことから、これも同様の「ぬくぬく地名」だと
いうもの。

「姥の懐」は長崎の方言で「うばんつくら」と言い、県内の
あちこちにそれに類する小字地名がある。
 うばんつくらは温暖で日当たりがよいため作物がよく育つ、農業に
向いている土地だ。

 女の都周辺には、確かに姥の懐と同様の地形があちこちに見られる。
状況的には「乳母(めのと)説」でよさそうだが、今ひとつ納得できない。

 だいたいこれは、古文書でメノトが乳母と書かれていたのが根拠
らしいが、単に昔のお役人が思い込みで乳母の字をあてて書いただけの
ような気がする。


 では、メノトには別の意味があるのだろうか。

 地名の「メ」は、オスメスのメスで、地形的に、
凸凹の凹の所を示すことが多い。

 例えば、長崎港入口、女神大橋の両側にそれぞれある、男神(おがみ)と
女神(めがみ)の地形を比較するとよく判る。

ogami_megamiB.jpg

 男神は海にドドーンと突き出した岩山の岬で、対岸の女神は大きな
谷間のある山。

 また、諫早市の目代(めしろ)町は、山の尾根が広範囲に平面的に
くぼんでいる。
地名の「しろ」は小高い平坦地の事なので、地形と地名が一致している。


 メノトの「ト」とは何か。

 地名のトは戸や門と書き、海岸の場合は港の事とも言われているが、
大抵は、両側に山や崖などが迫る所を指している。
 それは海峡でも河口でも道路でも山の中でも同じ。
 
 女の都の場合は、山の間の窪地と言えそうな所が、あちこちにある。

DSCF7508A.jpg


つまり、
「窪地(メ)が、山に囲まれたところ(ト)なので、
メのト。」

と説明できそうだ。


もうちょっと根拠がほしい。

 長崎県の小字地名一覧には、小字名「女の戸」の記載があるので、
元々ピンポイントな地形地名だった可能性が高い。

一覧表では「女の戸」なのに、地図上ではなぜか「女の都」になっている。

menoto_koazaA.jpg

 よく見ると、小字の文字はゴシック体なのに、これは明朝体。
流用した現代の地図の文字らしい。
うそやんけ!だましやんけ!

 これでは場所の特定が出来ない。
長崎市内は、他の小字も地図には書かれていないものが多い。


 地名の意味を考える時、古い航空写真や地図は大いに役立つ。
昭和37年の女の都近辺の航空写真を見てみよう。

menoto_s37-2.jpg
 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスより


 これにより、団地ができる前まで、女の都は山あいの農村集落だった
ことが判る。

 当時、ここへのアクセスは、畦道を除けば川平方面から登る細い谷間の
道だけであり、こちらが正面ということになる。女の都2丁目の周囲の斜面
には、切り拓かれた棚田や畑が広がっていて、数軒の民家が確認できる。

現在の川平方面からの登り口
DSCF7502A.jpg


女の都1丁目、2丁目周辺は南向きに広範囲に落ち込んだ窪地で、背後に
山があって北風が当たらないため「うばんつくら」地形と言えそうだ。

menoto_chikei01.jpg

 元々人が住んでいたこの辺りが「女の戸」だった可能性は高い。


昭和37年と現在の比較
menoto_s37-1.jpg

menoto_hikaku.jpg
元々の道路が無ければ、なかなか同じ場所とは気づかない。 


 そろそろ結論を出さねばならないが、微妙なところだ。女の都は、山に
囲まれた窪地なのは間違いない。おそらくこれが由来だと思うのだが、
暖かい土地であることも事実。

ハッ!
もしかして‥ メノトは、地形と気候の状況を一言で文学的に表現した
「ハイブリッド・ポエム地名」だったのかもしれない!!

  (↑いいのか?その結論でいいのか?) 


最後に、なぜ「オンナのミヤコ」と書くのかという点を片付けよう。

「女の都」という漢字表記は、おそらく住宅団地ができた昭和40年台に、
「女の戸」を、インパクトと話題性のある【女の都】に変えたのだろう。

と、思っていたのだが、それは長崎市に対して、スライディング三回転
半ひねりムーンサルト土下座で謝罪せねばならない程の誤解だった!

 明治時代に作成し、昭和の初期に改定された地図にはすでに「女ノ都」
表記があるではありんせんか!あちきはもうビックリしやんした。

menoto_meiji.jpg
 大日本帝国陸軍発行の測量地図より (む読らか右)

少なくともその頃には「おんなのみやこ」と読み間違えてドキドキしてる
子供がいたのだろう。


 でも、やはり元々は、小字一覧の通り「女の戸」と書いていたと思う。
江戸時代まで「都」は天子様が住む皇居がある場所の事であり、田舎の
集落がこの字を好きに名乗れたとは思えない。この漢字の変更は、
明治の文明開化の風潮によって行われたものではないだろうか。

 そういえば、諫早市にある宇都(うづ)町も、江戸時代の古地図には
 「宇津」 と書いてあった。

 田舎であるほど「都」に憧れるもの。都のように賑やかになることを
願ってこの字に変えたのではないかと思うのだが、何ひとつ証拠は、
ないッ!


ただ言えるのは、開拓の小集落だった女の都は、昭和の御代に
たくさんの人々が集まり、本当に「都」になったということ。

そして今では、その名を全国に広く知られるほどに。




※参考文献:
 古代地名語源辞典 楠原佑介編
 長崎県の小字地名総覧 草野正一著
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コメント

非公開コメント

No title

期待せずに覗いたら、なんと更新されているぢゃありませんか!
驚き桃の木山椒の木、ブリキにタヌキに洗濯機という懐かしいフレーズが胸に響きました(笑)
女の都って、確かに不思議な名前ですもんね。
読んだら散策に行きたくなりました(*´▽`*)

Re: No title

こんばんは ご肛門ありがとうございます
女の都については、平家の女官だったおたけさんに因む「おたけ公園」など気になることがまだまだあります。今回一番v-405ビックリしたのは、2丁目7番地の崖のところに建つ住宅です。すでに空き家のようですが、斜面に鋼材とコンクリで空中に浮かんだ「床」を組んで、そこに家を建てています。思わず拝みました。そして、一番心残りだったのは、女の都病院近くの「パンダ食堂」というイカした昭和ネーミングの中華料理屋さんに行きそびれたことです。今度リベンジしたいと思います。

No title

パンダ食堂!イカす名前ですね。
私も行ってみたい。
餃子で一杯v-275いけそうなお店だったら嬉しいなぁ。絶対一杯じゃ止まらないけど。
時津のパンダオートと親戚だったりしたら楽しいのに!なんて事も思ってみました。


Re: No title

こんばんワニ
パンダオートを探していたら、長与の嬉里にモンキー・パンダとゆう雑貨屋さんを見つけました。ストリートビューで見ると、店頭の看板に「おむつケーキ」と書いてあり、思わず「そんな汚いもん食えるかっ!」とあきれました。冷静になって調べたら、おむつをデコレーションしたギフトだと判りました。世界はまだまだ謎に満ちています。今夜は白黒パンダの放送が楽しみです。

No title

モンキーパンダは割とご近所です。
雑貨の他にリサイクルの子供服の販売なんかもしてるので、小さなお子さんがいる人(=若いママさん)が行くお店かなと思いながら素通りです(笑)
ぼんやりしているうちにドラマの初回を見逃して、そのままになりがち。
色んな事に関して置いてけぼり。ちょっと切ない。
でもいいの、楽しみにしてたブログが再開されたから。
勝手に私への誕生日プレゼントだと思って喜んでます。
コメントも有難うございます☆

Re: No title

散歩記を気に入っていただきありがとうどざいもす。筆者が呑気で怠け者のためウルトラスーパーマイペースですが、ぼちぼちやっていきますのでよろピクおねげえします。そして、お誕生日おめでとうございます。ハッピーニューイヤー!次は長与ネタです。




Ramblingbird

長崎南部の自転車散歩やどうでもいい出来事を、小学生ギャグを交えて書き散らします。お下劣な表現を含みますのでご注意下さい。