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地名散歩 千年地名 千々石(ちぢわ) 

長崎地名的散歩
05 /02 2020
雲仙市千々石(ちぢわ)町
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 雲仙岳の麓に位置する千々石町は、一面に畑が
広がる営農地帯で、少数ながら漁業者もいる。
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 千々石湾に面した長い砂浜では、釣り客や散歩
する人が、年中のんびり過ごしている。
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 残念なのは、最近閉鎖されてしまった海水浴場。
復活したらまた、覗、いや、遊びに行きたい。
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 町の背後から西側には、千々石断層の高い崖が
となり町の諫早市森山町唐比(からこ)まで続いて
おり、自然の営みの壮大さを感じられる。
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 山の方へ進むと、清冽な水が潤す棚田が重なり、
春夏秋冬移りゆく、日本の原風景を楽しめる。
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 非日常を感じられる気持ちのよいところだ。
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 さて、千々石(ちぢわ)という地名の由来だが、
断層崖の下の海岸には、無数の大岩が転がって
おり、昔は「千々岩」と書かれていた事からも
「たくさんの岩」が由来だと思っていた。
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 しかし調べてみると、千年以上前に書かれた
肥前国風土記という書物に出てくる、比遅波
(ヒヂハ)という名の崖が、千々石断層のことで、
ヒヂハが変化して、チヂワになったと言う説が
有力らしい。

うう~む。ほんなこつじゃろか?

 長崎の壱岐や対馬も、卑弥呼の3世紀から
続く古い地名であることが知られているが、
似ているからといって都合よく解釈するだけ
では、真実は遠ざかってしまう。

 散歩記は、趣味ではあるが、現実的な視点で
冗談や軽口を排してストイックに地名の考察を
行う、至って真面目なブログだ。
 (はい、ウソです)

「ヒヂハ」は地名用語で読むと「湿地の端」
という意味にもなる。

 千々石町は、海辺の湿地だった所に畑が
作られている。

 しかし、岸(崖)の事をヒヂハと言ったという
風土記の記述と合わない。


 やはり、まずは基本に従い、千々石に似た
地名を探して地形の状況を比較してみよう。

 ※座標はGoogleマップ検索用
 ※座薬はボラギノールAイボ痔用

・雲仙市千々石町
 32.790278, 130.185872 
 山から海岸へ続く緩傾斜地に田畑が広がる。
 背後には特徴的な千々石断層の崖が続く。
 崖の下の海岸には、無数の大岩がある。
 
・長崎市千々(ちぢ)町
 32.652077, 129.876537
 千々石から橘湾を挟んだ茂木地区南側の
 海辺の集落。海岸には数m大の岩が並ぶ。
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・諫早市赤崎町 千々平(ちぢひら)
 32.835839, 130.104091
 昔は浅い海に突き出していた岬の側面。
 岩石を含んで崩れやすい急傾斜地(ヒラ)。
 現在は全面をコンクリートで覆ってある。
 周辺は石のつく地名が多い。
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・諫早市森山町 千々(ちぢ)
 32.824352, 130.125922
 隣り町の赤崎町と同じく、昔は海岸近くの
 干拓地で、周囲は石に関する地名が多い。
 未開発の土地には大きな石が露出している。

・対馬市千々瀬(ちぢせ) 
 34.701172, 129.441731
海岸に細長く突き出した岩礁。

・五島市三井楽町 千々見ノ鼻(ちぢみのはな)
 32.766087, 128.697370
 溶岩が風化した様な岩礁海岸。

・新上五島町 築地(ちぢ)
 32.875575, 129.050556
 周囲を含め、岩礁海岸。河口には石が多い。 

・佐賀県唐津市千々賀(ちちか)
 河口に近い平坦地で川のそば。
 チチと清音なので、別の意味か?

・青森県むつ市大畑町赤川村 ちぢり浜
 41.454217, 141.119586
 波に浸蝕された奇岩が広がる海岸。

 チヂのつく地名を集めて状況を確認すると、
ほとんどが岩石のある海岸だった。

 そォ~れ見たことか!やっぱり‥

 ん~?イヤ!それはおかしい!!

 千々は「数が多い」という意味のはずだが、
この例を見ると「チヂ」だけで「岩石」の
意味を含んでいる事になる。

 それに、岩と言っても、繋がった岩礁の
場合も多く、必ずしも岩の数が多いという
わけでもない。

 という事は‥、わしの見当違い?

 うんにゃ!どう考えても岩に関係するはず。

 そうだ。そのはずだ! 関係する!

 するも~ん! 関係するも~ん!

 いかん、ちと取り乱してしまった。冷静に
ならねければないとなられらん!


 そして、不思議なことに、このチヂ地名の
ほとんどが長崎周辺に集中している。

 検索に引っかからないだけかも知れないが、
思いっきり飛んで青森というのも面白い。

 長崎と青森は、「対馬海流」で繋がっている。
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 うう~ん、
 チヂは「たくさん」では無く、岩??

 では、肥前風土記のヒヂハが正なのか?

 一発、検証してみることにしよう。

 肥前国風土記のヒヂハという名称について
説明している部分は、下の2カ所。

・土歯池。俗言岸為比遅波。
 土歯池(ひじはいけ)。土地の者が、海岸の
 崖のことを「比遅波(ひぢは)」と言った。

・縁土人辞、号曰土歯池。
 土地の者の言葉により、土歯池(ひじはいけ)
 と名付けられた。

 あとは、断層の崖と土歯池の大きさと状況に
ついて書いてあるが、ことごとく数値が二倍。

 これは、元佐賀大学教授の西晃央先生が、
「肥前国風土記における土歯(ひじは)池の
所在地について」で指摘された通り、古代の
「一丈」が現在のニ倍だったなら、ほぼ合う。

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ヒヂハとは何か。これが一番の問題。

 土地の者(土人)の言葉で、ヒヂハと言う
あるので、これは方言か外来語だろうか。
 土地の者とは、どこから来た何者だろうか。

 東北・北海道にはアイヌ語起源の地名が多い。

しかし、それを全国の明らかに日本語の地名に
無理矢理あてはめるトンデモ説は論外だ。

 最近は「縄文語」というのが研究されていて、
これは古代日本の先住民の言葉で、アイヌ語や
琉球語と元が同じとも言われているらしい。
 
 今も沖縄周辺とアイヌで共通の言葉もある。
アイヌ語に取り入れられた日本語も多い。

 日本語で意味が解けないのなら、これらを
確かめてみるのも悪くはないだろう。実際に
長崎の謎地名で、アイヌ語の意味と合って
いそうなものも複数ある。

 ネットのアイヌ語辞書などをあれこれ見て、
ヒヂハに近い言葉を探してみた。

・ピシ:浜、石浜
・ピチ:小石
・チシ:岩、立岩、岩山
・ワ :岸、渕

 「チシ・ワであれば、岩山の岸(崖)で
意味が合い、発音もほぼチヂワなのだが、
ヒヂハとは離れすぎている。

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大体、「ヒヂハ」で正しいのか?

 風土記のヒヂハの項で、ひとつの文の中に、
土歯(ヒジハ)と比遅波(ヒヂハ)の記載がある。
なぜだろうか。

 たぶん、土歯池は実際にそう書かれて
呼ばれていたからで、比遅波は、ヒヂハの
発音を「万葉仮名」で表したもの。 

 風土記が書かれた奈良時代には、ハ行は
パピプペポに近い発音
だったので、実際は
「ピヂパ」だったはず。

 「ピシ・ワ」(石浜の岸(崖)と言いた所だが、
パとワは聞き間違わないだろう。

ヒシを辞書で調べると、海の中の洲(す)
と書いてある。洲は一般に砂洲だが、洲には
「島」の意味もある。「堆積物で陸地のように
なったところ」なら、石でもよさそう。

 ちなみに、沖縄方言ではサンゴ礁のリーフ
部分をピシと言うそうだ。
※リーフとは環礁の外周が海上に出た部分。
 石(石灰質)の浜と言えるのではないか。


 奈良時代から平安時代になると、ハ行は
パピプペポからファフィフフェフォになる。
ピヂパは、フィヂファになる。

 さらに、平安時代に「ハ行転呼」という
ものが起こり、語中、語尾のハはワと発音
され、フィヂワになる。

 おお、かなりチヂワに近づいたぞ! 

 同時期にフィは、現代のの音になるので、
「ヒヂワ」になっていく。

 そして、この時代に「荘園制」が始まり、
文献に「千々岩庄(ちぢわしょう)」の名称が
やっとこさひょっとこさ、登場する!

 
 フィヂやヒヂが、チヂに変化する過程を
説明は出来ないが、フィヂワやヒジワより
チヂワのほうが言いやすいのは間違いない。

 言葉は言いやすいように変化するものだ。


 縄文語・アイヌ語説は、部分的に合って
いる気もするが、なんとも言えない。

 何せ千年以上前のことなので、アイヌ語
も発音が変わったり、「縄文語」も地域で
微妙に違っていてもおかしくはない。
 

 ただ、ピヂパチヂワにならない
こともなさそう、
という事は解った。
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 そしてもし、古代の岩石を意味するピヂと
言う言葉が、「チヂ」となって現在の地名に
残っているとしたら、

何か、よかたいね。



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Ramblingbird

長崎南部の自転車散歩やどうでもいい出来事を、小学生ギャグを交えて書き散らします。お下劣な表現を含みますのでご注意下さい。