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地名散歩 毛井首(けいくび)は、くびれた峠  

長崎地名的散歩
05 /08 2020
 長崎市街の南側、三菱造船所香焼(こうやぎ)工場の
近くに、現在も行政地名としてそのまま使われている、
土井首(どいのくび)町、毛井首(けいくび)町がある。
doi_kei1A.jpg
  Googleマップ衛星写真より

 土井首は、よく言われる通り、海岸に築いた防潮堤を
昔は、土囲(どい)と呼んだからだろう。
 「ドイ」地名は、長崎県の海岸にしばしば見られる。

 地名の「首」は、大抵が、土地の一部がくびれて
細くなった所のこと。

 
 よく判らないのは、毛井首(けいくび)

 古くは草木の事を「毛」と言ったので、草木が茂った
首地だと言われているようだが、どうも納得できない。

 昔は草木が生えていない所のほうが少なかったはず。
今も昔も、長崎は辺境のド田舎ですからねェエエ~~

 何か余程の理由が無い限り、地名には草木の意味で
「毛」が使われることはないだろう。


 そして、類似の地名をいろいろ探した結果、毛井首は
「越え首」だろうという考えに至った。

 「越し、越え」は、山や丘を越えて別の場所へ
行きやすい、他より低くなった峠道のことを言う。

 本格的な山越えの所もあれば、小丘のプチ峠もある。

 つまり、越え首は「くびれた峠」だ。 


 山や丘を越える所が首地形なので「越え首」。
・時津町日並郷 越首 (こえくび) 
 32.839157, 129.828711
・田平町下寺免 越首 (こえくび)
 33.324138, 129.579351
・西彼町喰場郷 越ノ首 (こえのくび) 
・田平町深月免 コイ首 (長崎弁でコイに変化?)

 「越し首」も言い方が違うだけで意味は同じ。
・西彼町大串 越首 (こしくび)
 33.009608, 129.728229
・長崎市木場 越首 (こしくび)
・若松町宿ノ浦郷 越首 (こしくび)
・西有家町龍石 首越 (くびごし) 


 では、越え首が、どう毛井首に変わったのか。
その過程を、例を挙げながら見ていく。

①越え首の「コエ」は、縮まって「ケ」になる。

 越える事をケルとは言わないので、違うかと
思ったが、「地名」は動詞では無く名詞なので
場所が識別できればいい。だんだん言いやすく
変化したのだろう。

 実際に、越と書いてケと読むところがある。
・長崎市多以良町 越首 (けくび)

・多良見町舟津  越首 (けくび) ↓
 32.862775, 129.925692
ikiriki_kekubi2A.jpg
  Googleマップ3D衛星写真より
 国道側は、工事で大きく切り通してある。
反対側はえぐれた自然地形になっている。 

 ここは、長崎県の小字地名総覧でも、バス停名
でも「けくび」となっているが、地元の人に訊ねたら
「私達はコエクビて言うよ」とのことだった。

 ここは、バス停の漢字が「越」で、場所も山越え
道の頂上にあたるため、住民も「越える道」という
認識があるのだろう。
DSCF5782A.jpg


②「ケ」の意味が忘れられたケクビと呼ばれる
土地では、ケだから「毛」だろうと誤解されて、
毛の漢字が使われるようになる。


・東彼杵町遠目郷 毛首 (けくび)
・野母崎 高浜町 毛首 (けくび)
 
 ちなみに「毛首」は、おっさんの毛の生えた汚い
乳首ではないので心配はいらない。大丈夫だ!

 野母崎の高浜にある毛首には、5つの小字がある。
毛首 中毛首 下毛首 西毛首 南毛首 
 32.608127, 129.792121
takahama_keikubi2A.jpg
   Googleマップ3D衛星写真より
 どれがどこかはよく判らないが、あっちもこっちも
くびれまくり。

 「南毛首」らしき所は、キレイに丸く落ち込んでいる。
DSCF2156A_20200506201112692.jpg
 地形的には、越え首で無くてどうしますかと言う
ほどの越え首地だ。

自転車でさらに上の方へ登ったら、いい眺めだった。
DSCF2164SA.jpg


毛首は「ケークビ」と発音するのだろうと期待して
現地の年配の人に聞いたが「いや、ケクビ」との回答。

 生まれた時からずっとここに住んでいるお婆さんは、
毛首の「ケ」が「越え」かもしれないという話は、全然
聞いたこと無いとのことだった。


③「コエ」は「ケ」または「ケー」になり、
「ケー」は「ケイ」に変化した。


・長崎市毛井首町 毛井首(けいくび)
・大村市東大村   鶏首(けいくび)

 長崎弁では、単音の言葉は語尾が伸びやすい。
 例えば、屁は、「へー」となる。
 (真っ先にそれか!)

 手ーば洗う。子ーの生まるっ。蚊ーに食わるっ。
歯ーの痛か~。痔ーの痛か~。血ーのづっ(出る)。

  ※詳しくは こちらで


 ではなぜ、ケーがケイに変化したのか。

 それは、地名を漢字で書く必要が出てきたからだと
あちきは考えるのね。

 役人が土地の記録を作る際、漢字を使わない民衆から
聞き取りした地名に漢字を当てるわけだが、ケーと読む
漢字は無いので、代わりにケイと読む漢字が当てられ、
そのうち、漢字の通りケイと発音するようになったの
だろうと思う。

 大村市東大村の鶏首は、ひょうたん形の丘の付け根の
くびれた部分を越える所がある。
 32.927042, 129.989394
keikubi_omura1A.jpg
  国土地理院地図より
 ※衛星写真では木が茂り過ぎてよく判らなかった。


 長崎の毛井首に戻ろう。

 むかし、長崎の毛井首から隣りの土井首へ行くには、
毛井首町公民館奥の丘にある、古い細道を越えたはず。

 それは車の通る道ではなく、墓地周辺の芸術的に
くびれた丘の細道の方だったかもしれない。
 ここもあきらかに越え首地形だ。
keikubi_a2A.jpg
  32.693814, 129.840419

 それに、公民館から鶴見台団地のほうへ登る細い
旧道も、思いっ切りくびれた、越え首地形。
keikubi_tsurumi1A.jpg

 あっちもこっちも、越え首!


 ◎首地ではないが「越」と書いて、ズバリ!
「ケイ」と読む地名が存在する。


・野母崎 高浜町 越地(けいぢ)

 ここは、同じ町にある「毛首」から海岸のほうへ
下りたところで、低い丘を越える道沿いの集落。
DSCF2132A.jpg

「越」は何の辞書を見ても「ケイ」とは読まない。

 おそらく元は越地(コエヂ)で、越の字が使われた
まま、発音だけがケェヂになり、ケイヂになったと
考えてよさそうだ。

 ここはさすがにケェヂと発音するだろうと、土地の
年配者達に聞くが、明瞭に「ケイヂ」ですとの事。

 漢字は「越」で地形的にも明らかな越え地なのに、
読み方はケイで定着している。
 
 予想がはずれてガッカリ八兵衛だが、越をケイ
と読むことを自然に受け入れているのは面白い。

 その後、明治時代の長崎県地図が手に入ったので
越地を見てみたら、わざわざ越に「ケー」とカナを
ふってあった。ケーヂだ。
ke-ji1.jpg

 やっパリ、ロンドン、ニューギニア!
    (ちょっと変えてんじゃねーよ!)

 ここも、越え地がケェヂになり、ケイヂに変化したのだ。

 
 ひとつよく解らないのは、
 越え首(コエクビ)が、ケクビ、ケイクビに変わったとして、
 それは自然になのか、意図的なことなのか。

 ハッ!そうか!
 コエクビだと、
 「肥え汲み」っぽいから?
 



参考文献:
 古代地名語源辞典 楠原祐介 編
 長崎県の小字地名総覧 草野正一 著
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Ramblingbird

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